491号(17年7月)

2017年 PLオンブス会議報告会 子どもの事故をどう防ぐ!?

パネルディスカッション=6月30日、主婦会館

 PLオンブズ会議では、毎年法施行日の7月1日前後に報告会を開催しています。今年度は6月30日に主婦会館で開かれ、消費者団体ほか67人が参加しました。テーマは、「子どもの事故をどう防ぐ!?〜製品をめぐる子どもの安全〜」です。
 日常の生活の中で、子どもの事故ほど痛ましいものはありません。子どもの事故はどうすれば防げるのでしょうか。中でも、製品に起因する子どもの事故はなぜ起こったのでしょうか。子どもの事故は親の責任だけではなく、製品の改善で事故を減らせることもあるはずです。
 安全性の高い製品を開発するメーカーの責任や、社会全体が子どもの安全について関心を持つことについて考える、2つの報告とパネルディスカッションが行われました。

報告(1)

“事故”とは
緑園こどもクリニック院長 山中龍宏さん

山中龍宏院長

  今回のテーマの「子どもの事故をどう防ぐ」の“事故”という言葉を考えてみます。欧米ではかつては事故をAccidentとしていましたが、この言葉には予期せぬという意味があります。
 私たちはさまざまなデータの中から傷害をどう予防していくか、考えなければなりません。子どもの事故を防ぐ対策として真っ先に挙げられるのが“見守り”です。近くで見守っていれば事故を防ぐことができるのでしょうか。
 産業技術総合研究所で行った、乳幼児の転倒時間の分析があります。115人の乳幼児が平らな部屋で自由に過ごす様子を記録し、その中での転倒事象を分析したものです。子どもが平地で転倒するとき、倒れ始めてから身体の一部が接地するまでの時間は0・5秒程度ということが分かりました。人が反応するためには、0・2秒かかりますので、子どもを転倒から守るためには倒れつつある子どものところへ0・3秒以内に移動しなければなりません。これはたとえ目の前で見守っていて
も、対応が難しいことを示す数字です。
 1・8メートルの遊具から転落するのに、0・6秒しかかかりません。これも近くで見守っていても間に合わない数字です。
 私たちは傷害を予防するために3つの効果ある予防策をもっています。Environment(環境・製品)、Education(教育)、Enforcement(法律・基準)の3つのEです。この3つのEを有効にするためには、傷害のデータベースが必要です。
 わが国にはこれが全く不足しています。多くの傷害情報を持っているのは病院や救急隊です。しかし、この連携さえうまく行われていません。救急車は病院で医師に患者を引き渡し、その時に身体の状況を記録すればそれでおしまい。救急搬送時のいろいろな情報は引き継がれませんし、その後病院でどのようになったのかの情報を得ることもできません。
 これらの情報を有効に生かす仕組みが絶対に必要なのです。製品でどんな対策ができるのか、さまざまな検討の基礎的なデータとなることは間違いありません。

報告(2)

「子どもの事故をめぐる裁判の状況」
伊藤崇弁護士

伊東崇弁護士

 PLオンブズ会議メンバーである伊藤弁護士からは、国民生活センターが収集しているPL裁判の判例の中から、子どもの使用を製造者が想定している製品に関する判例9例、想定していなかったが子どもの事故が起こった4つの判例が紹介されました。
 日本工業規格JISZ8050「安全側面―規格及びその他の仕様書における子どもの安全の指針」の一部も紹介されました。

PLオンブズ会議

PL法制定運動を引き継ぎ1998年に発足

 1990年前半期、PL法の制定を願う消費者団体、消費生活相談の専門家、弁護士などが参加して製造物責任法(PL法)制定の運動が進められ、ついに1994年7月1日にPL法が実現しました。1896(明治29)年に制定された民法709条(不法行為)の過失責任の原則を100年ぶりに消費者の視点か
ら改正させた、画期的な法律の実現でした。
 制定運動の要となった「消費者のための製造物責任法の制定を求める全国連絡会(PL法消費者全国連絡会)」は、法制定という目的を達成して解消しましたが、制定運動の参加者を中心とするネットワーク組織「PLオンブズ会議」を1998年に結成、全国消団連と連携して活動を続けています。

パネデルィスカッション

 その後はパネルディスカッションです。PLオンブズメンバーの中村雅人弁護士をコーディネーターに、山中院長、産業技術総合研究所の西田佳史主席研究員、宗林さおり国民生活センター理事、株式会社LIXIL品質保証統括部品質マネジメント部の千代勉さんがパネリストを務めました。
 はじめに、国民生活センターの宗林さんが2016年度の子どもの製品事故事例を紹介されました。自転車の足の巻き込まれ、店舗のショッピングカートからの転落、いわゆるびゅんびゅんゴマによるけがなどへの取り組みです。
 LIXILの千代さんは、家の中でもドアやサッシへの手挟みなどはまだ起こっているけれど、折りたたみドアの隙間の角をカットする対策など、メーカーとして努力していること、製品安全について、成人向けのセミナーや学校への出前授業を重ねていることが話されました。また、オリジナルの教材の作成や本社では製品安全の取り組みや事故品の展示をしている展示スペースを設けたことも紹介されました。
 産総研の西田さんは、山中先生からも紹介された子どもの行動特性を研究し、製品による事故防止の取り組みを促していることを紹介されました。
 事故を予防するためには、さまざまなデータが共有されることが重要で、事故の原因やその時の環境、そして結果まで、多くの情報がオープンデータとして使えるようになることが重要と指摘されました。万が一事故が起こったら、その時点での状況をカメラに収めることも、これからは必要です。
 情報収集のあり方としては、保護者からは、なかなか情報が集まりにくいことが指摘されました。「目を離したから」「そばにいたのに事故が起こった」など、保護者が自分を責めて、製品事故として情報提供する行動を起こすことが大変少ないのが現状です。
 また、問題提起をしたことで、「親としての責任を果たさず、他者に責任を転嫁している」「金銭の要求をしているのか」等の、いわれなきバッシングがあるのも現状です。ますます、保護者からの情報提供がしにくい世の中になってしまっています。そこで、医療機関や消防からの生情報の提供が重要になります。
 これまでも、関係者の努力により、ライターのチャイルドレジスタンス機能、電気ケトルの湯こぼれ防止装置等の対策が進んでいることも紹介されました。JISZ8050も制定されましたので、今後は、子どもへの人間工学的アプローチから、製品での安全対策が進んでいくことが期待されます。
 最後に、子どもの人権を尊重し、製品事故から子どもを守るために、情報収集のあり方の改善及びその効果評価を行うこと、事故情報を発信していくこと、事業者は子どもの行動特性に合わせて製品の安全性を高めること、事業者は消費者に対して丁寧な情報提供を行うこと、消費者は子どもの事故を親の責任にとどめず、社会的に未然防止に取り組む視点から、事故情報を共有すること等のPLオンブズ会議の提言を紹介し、閉会しました。

→消費者問題・経済生活